「二つの“龍”」・気仙沼と竜飛崎

1日目

2000年10月7日(土)

秋田 〜 (新幹線) 〜 一ノ関 〜 (大船渡線) 〜 気仙沼


ルート策定

10月中に、なんとか気仙沼まで行ってみたいと考えていました。後述の美術展が目的です。仕事の合間を見つけて行くとすれば、この3連休しかない! そんなわけで、とにかく出かけました。

さて、出発するに当たり困ったのは、この日、午前10時まで勤務である点です。
こればかりはローテーションなので、途中で抜け出すわけにも行きません。しかし、10時に勤務が明けてから出発するとなると、気仙沼到着は午後の遅い時刻になってしまうはず。美術展なんか見学する時間が取れるのでしょうか。

秋田から気仙沼まで行くには、「どうにかして一ノ関まで出て、大船渡線」というルートが、どうやら一番良さそうです。
その「どうにかして一ノ関」を実現するには

  1. 盛岡経由(奥羽本線・田沢湖線・東北本線)
  2. 横手・北上経由(奥羽本線・北上線・東北本線)

以上が考えられます。

時間が限られていることから、ここでは、新幹線を使用できる1番目のルートが最適でしょう。

実際の時刻。
秋田を11時40分に発車する「こまち14号」が、利用できる最も早い列車になります(10時27分の12号も、勤務が明けたその体でタクシーにでも飛び乗れば可能ではありますが、結局、盛岡から先は同じ列車になってしまいます)。
この列車は一ノ関を素通りするので、盛岡で乗り換えます。盛岡着が13時08分。「Maxやまびこ46号」に乗り換えて、盛岡発13時15分。
一ノ関到着は、13時58分です。

ここで、大船渡線に乗り換えます。快速「スーパードラゴン」が14時07分発。それに乗ると、気仙沼到着は15時24分となります。

調べてみると、お目当てのリアス・アーク美術館は、「午後5時まで。ただし、最終入館時刻:午後4時30分」とのこと。場所は、気仙沼駅から2〜3km。バスかタクシーなら10分程度でしょう。ふむ。じゅうぶん時間は取れそうです。


前日準備

JR東日本の企画乗車券「ゴーゴー3DAYSきっぷ」を購入。
写真のフィルムの在庫を確認。夏に買ったものが、まだ、わんさと残っています。


夜勤明けの

ほとんど上の空で仕事を終え、家に戻ります。一睡もしていない体は、ぼんやりしています。それでも、荷物をまとめ、有無を言わせず出発。駅へ向かいます。
目論見どおりの列車に乗れました。あとは寝過ごさないだけ(盛岡まで、完全に意識がとんでいました。車内放送で、危うく眼を覚まします)。


初の大船渡線

憲政会と政友会の政争に引っ張り回されてルートが変えられたとか、その辺の知識はどこかで仕入れていても、実際に乗るのは初めてでした。
このところの地方ローカル線のご多分に漏れず、ワンマンカーがごとごと走っているようです。

途中、猊鼻渓(げいびけい)などの名所を通りながら、山の中を進みます。岩手県の内陸と沿岸を結ぶ路線として、この他に釜石線や山田線がありますが、緑の中を短い列車が駆け抜けていく風情は、どれも共通したものを感じます。


気仙沼に到着

時刻どおりに気仙沼に到着しました。日本の鉄道、万歳!
午後の3時半近く。そろそろ空も夕方の準備です。
気仙沼駅は、市街地からは少し離れた場所にあります。どことなく、駅周辺の家並みは静かです。

かつて、同じ宮城県の仙台市に住んでいながら、気仙沼へは行った事がありませんでした。

― 仙台と気仙沼 ―
気仙沼市は、そのためだけに宮城県が北へ突き出したような位置にあって、お隣はすぐ岩手県です。「走っても走っても、まだ先にある」印象でした。

それはともかく。
美術館は駅から南へ約2km。しかし、正確な道順は知りません。一応地図は手にしていたのですが、美術館は最近オープンしたらしく、道路が点線で書いてあったりしてハッキリしません。
普段なら、「さ、歩くか」となる所なのですが、たとえ道を知っていたとしても、この距離では30分以上かかります。途中で迷う可能性を考えると、鑑賞している時間がほとんどなくなってしまいます。

そんなわけで、公共交通機関に頼ろうとしました。しかし、駅前には普通のバス停が見当たりません。「観光スポット巡回・定期路線」とか書いたものはあるのですが、路線がやたらいっぱいあって、美術館に連れて行ってくれるのが、いつ来るのやら。
こんなところでぐずぐずしている暇はないので、思い切ってタクシーに乗り込みました。
「リアス・アーク美術館っていう所までお願いします」「リアス・アーク美術館ね」
てなわけで、支障なく走り出します。途中、ぶつかりそうになった渋滞も、見事に裏道へ回って回避。さすが。

10分ちょっとで、それらしい建物に着きました。なんだか、丘の上のようなところに建っています。
「駐車場までしか入れないんでね、そこから歩いてもらうことになりますから」「あ、そうなんですか」
運転手さんが、すっと車を入れた先は、「職員駐車場」。
「あー、ごめん。あっちの方に入るんだった。メーター、ここで止めときますから」

1680円。
高い!

ま、タクシーだからこんなもんか。帰りは歩くことにしよう。

表の駐車場にぐるっと回って、降ろしてもらいます。運転手さんは「歩いてもらう」と大層なことをおっしゃいましたが、入り口はすぐそこでした。

ちなみに乗ったのは「キングタクシー」。秋田に全く同じ名前の会社があるので、びっくりしちまいました。


宮城県立リアス・アーク美術館

― リアス・アーク美術館 ―
建築物それ自体が、すでに「美術」であるかのようです。石山修武さんという方が設計した建物なのですが、屋上に船が乗っているような、不思議な様相です。中の展示でなく、この建物目当てで訪れる人もいるみたいです。

入り口前の看板の近くで、遠くに見えた山並みを眺めていると、そばを通りかかった美術館の係員らしいおじさんが、屋上に上って景色が見られますよと教えてくれました。
― 屋上からの眺め ―早速行ってみると、なるほど、気仙沼の市街地が一目で見渡せていい気分です。建物そのものは3〜4階建て程度の高さしかないのですが、丘の上にあるので眺望は抜群です。
(写真手前の建物は、気仙沼市体育館“ケーウェーブ”)


美術館の中へ

中に入って行くと、受付に居た二人の若い女性が、何者が来たかといった顔でこちらを見ました。

無理もありません。僕の恰好はと言えば、ただでさえでっかいカメラザックに寝袋をくっつけた巨大物を背負って、デンデン虫みたいになっているのに加え、およそ美術館と名の付く場所では間違いなく禁断の品となるであろう“写真機”を首からぶら下げています。とても美術を鑑賞しに来た輩には思えなかったのでしょう。

声を掛けるのもためらう彼女達に恐縮し、縮こまって受付のところまで行きます。そこに値段表がありました。
「一般」の列には「常設展:300円、企画展:800円」とあります。
おそるおそるといった感じで尋ねました。「これは……800円払えばいいということですか?」「企画展は、そうです、ね」お互い、なんだかぎこちなくて、なかなか会話が流れません。
「じゃあ、それで……」「常設展の方は……?」「え?」「常設展の方は、300円、なんですけど……」

どうやら、別々にお金が要るらしい。しかし今回は、企画の方を見に来たのであるからして、300円余計に払うのは気が引けます。「あ。そっちは……とりあえず、いいです」
ああ、もっと違う物言いがあるだろうに。

チケットを受け取ると、もう一人の女性が荷物をお預かりしますと言います。こんな大荷物背負って展示室に入るわけにもいかないでしょうから、お願いしました。

受付のすぐ右側に入り口があって、また、受付があります。入ると、チケットをお願いしますと言われます。しかし、あの間の抜けたやり取りはこの女性にも残らず聞こえたはずだと思えるほど、さっきの受付と今度の受付は目と鼻の先です。貰ったばかりのチケットが半券になって行くのを見ながら、どうにも違和感がありました。


佐藤健吾エリオ展 「はじまりの為に」 〜絵画と言葉の水平への試み〜

この鑑賞については、今回の遠出の中で特異な位置を占めるので、別立てにさせて頂きます。

結局この時は、係員と僕のほかは全く展示室の中にいない、貸切でした。


退散は歩き

展示室を出て、すぐ建物を出るのも癪なので、トイレへ行ってみたり展望スペースへ行ってみたり、ぶらぶらしてから荷物を受け取って外へ出ました。
空は夕焼けから夕闇へ移ろうとしています。先ほど、タクシーで駆け抜けた道を逆に辿り始めました。

坂を下りて行く途中、右手の小さな藪から音がしました。おや、とそちらを見ると、なんと、カモシカが一匹。こっちを見てじっと立っています。
しばらく見つめあっていると、やがて、カモシカは視線をはずして逃げるように立ち去りました。道を渡ってガードレールを飛び越え、見えなくなりました。
歩いていると、こういうことがあって楽しい。


飯と宿

市街地の方向へ、いい加減に見当をつけて歩きます。どこかに腹ごしらえの出来る所はないか。
一軒の食堂を見つけ、そこへ入り、イクラ丼というのを注文しました。

そして、日はとっぷりと暮れました。今夜の宿を決めなければいけません。
住宅街の片隅に公園を発見。ベンチにエアーマットを敷いて寝袋を準備。実は、かなり眠たくなっていました。前の夜が前の夜だっただけに。
空気がどうもひんやりしています。明日の朝は、事によったらかなり気温が下がるかも。

遠くから、秋祭りでもやっているのでしょうか、お囃子やカラオケの音が聞こえてきます。ともあれ、お休みなさい。


2日目

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written by tardy@k.email.ne.jp